【体験談】体調の波を知って「好い(いい)加減」に働く工夫を-双極はたらくラボ

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雑誌やアプリのコンテンツ制作会社に勤めるシラユキさん(仮名/40代女性)。新卒で就職した会社を強いうつ症状で短期退職するなど紆余曲折ありましたが、現在の仕事は7年間続けられているそうです。継続して働くには「体調の変化を見越したスケジュール管理が鍵」とのことですが、どんな工夫をされているのでしょうか?リヴァ社員で双極はたらくラボ※1 編集長の松浦が聞きました。

※1 双極はたらくラボ:双極性障害の方々が働き続ける上での工夫や知恵を集め、働くことに悩みをもつ方のヒントとなる機会を提供するメディア。2021年の公開に向け現在準備中です。

インタビュイープロフィール

シラユキさん

40代女性。コンテンツ制作会社に一般枠の正社員として在宅で勤務している。新卒で貿易会社の秘書として就職するが、3か月後に気分の落ち込みから退職。その後通信販売会社の総務事務やITコンサルタントのデータ管理業務などに従事し、結婚を機に退職。子育てを経験し、フリーランスとして雑誌等のコンテンツ制作を始める。副業で入った受付事務の職場で人間関係に強いストレスを感じ、「気分変調症※2」の診断を受けた。7年前現在の会社にスカウトされ、精神疾患で通院していることを開示して就職。2年前に「双極性障害Ⅱ型」と再診断された。

※2 気分変調症:うつ病と同様の身体症状も起こりうる気分障害の一種であり、うつ病と比較してより軽症ながらより長期間となる症状を伴う疾病。

“心療内科に通院中”のみ開示し入社 
自ら働きかけ在宅ワーカー1号に

松浦:早速ですが、現在お勤めの企業に入社された経緯を教えてください。

シラユキ:フリーランスとして活動していた時に声をかけてもらったのがきっかけです。ご縁があり内定をいただいたのですが、当時も気分変調症と診断され通院していたので、「体調が悪くなったときに、会社に迷惑をかけてしまうかもしれない」という不安がありました。そこで「精神疾患で心療内科に通院中ですけど、入社して大丈夫ですか?」と聞いてみたんです。

松浦:勇気を出して伝えたんですね。会社の反応は?

シラユキ:社長に精神疾患を持つご家族がいることもあり、会社として私のことも理解を示してくれたので、無事に入社できました。上司や同僚にも通院していることは伝えていますが、病名は開示していません。社長からは「辛い時は言ってね」と気にかけてもらっていますし、同僚にも体調が悪い時に仕事の調整をしてもらったりしています。

松浦:周囲の手助けが得られると、働き続けやすくなりますよね。

シラユキ:現在は在宅で働いているのですが、入社当時は在宅勤務に関する取り決めがなかったので、会社にお願いして制度を作ってもらいました。現在は私以外にも在宅勤務しているメンバーがいます。

松浦:それは素晴らしい。新しい働き方の導入について「うちの会社は無理」と思っている人も多いでしょうが、シラユキさんの場合は交渉してみることで、会社の働き方改革につなげられたんですね。

軽躁時、取引先に「イラッ」
失敗から学んだ苛立ちを断ち切るコツ

松浦:現職で双極の症状に困った経験は?

シラユキ:去年、軽躁状態のときに、取引先から無茶な指示を受けました。当初はメールでこちらの言い分を説明したのですが、全く聞き入れてもらえなくて。苛立った私は、普段メールのみでやりとりしている相手に電話で訴えかけてしまったんです。後から「もっと冷静に対処できたのではないか」と思い、反省しました。いまの職場で一番の苦い思い出です。

松浦:すごく分かります。私も軽躁の勢いで人と衝突してしまうと、「どうしてあんなことをしてしまったんだろう」と過去の自分に腹が立ったりして…イライラが連鎖してしまうんですよね。

シラユキ:そうなんです。それ以降、「怒りを感じたらメールを何度も見返し、一呼吸をして落ち着いてから返事をするように」など、反射的に行動しないように心がけています。それに「軽躁時はなるべく電話をしない」というルールも設けました。

仕事の進みすぎは「注意サイン」
変化の兆しを掴んで対処

松浦:私が軽躁になるきっかけの一つに、自分が関わっていた記事がWebサイトで公開されるなど、「嬉しい気持ちになる」ということが挙げられます。シラユキさんはお仕事に気分が左右される場面はありますか?

シラユキ:この仕事を始めた当初は、締め切りに追われ続ける不安感からうつ気味になることが多かったのですが、いまは一つひとつの目標を達成できる喜びの方が強いです。なので、業務がきっかけで症状が出ることはあまりないんですよね。でも、気分が上がっていると「際限なく調べ物をしてしまう」「アイデアがどんどん出る」という傾向があります。

松浦:軽躁の兆候は人によってそれぞれですが、シラユキさんの場合は仕事内容に直結しているんですね。私が同じ立場であれば、「もっと働きたい」という気持ちを我慢するのが大変そうです。

シラユキ:テンションが高いまま作業にのめり込んでしまい、その後大きく体調を崩した経験があります。逆にうつ状態で効率が下がり、「このままでは期限に間に合わない」という焦りから体調がさらに悪化したことも。そうならないために、余裕を持ったスケジュール管理を大切にしています。

軽躁もうつも想定内
「6割運転」の予定管理法

松浦:仕事の予定を立てるときの工夫はありますか?

シラユキ:自分が1日にこなせる仕事量を、あえて少なく見積もることですね。「気分がフラットな時にこなせる仕事量の6割」を1日分としてスケジュールを組むんです。うつになって作業が思うように進まないことや、軽躁にブレーキをかけるために勤務時間を減らすことを見越しておくんです。

松浦:なるほど。時間的な余裕があると気持ちにもゆとりができて、体調もコントロールしやすくなりそうですね。「本当はもっとできるのに」という思いになりませんか?

シラユキ:自分も含め、双極の方には完璧主義の人が多いと思いますが、「良い意味で『いい加減』になると仕事が続けられそうだ」と考えるようになりました。だから、6割で大丈夫なんです。

松浦:働くことに悩んでいる双極当事者にとって、心に響く言葉だと思います。

シラユキ:ゆとりのあるスケジュールでも対応しきれなくなる場合もあるので、体調が悪いと感じたらすぐ会社に相談しています。早めに言えば、自分の分を外注に切り替えるなど、手を打ってもらえますから。

松浦:周囲の方とも協力して、働き続ける工夫をされているんですね。プライベートで体調を維持するのに役に立っているものはありますか?

シラユキ:定期的にカウンセリングに行っています。あとは、SNSで自分の疾病について発信したり、ときには愚痴を書き込んだりすると、少し気持ちが楽になるんです。松浦さん主催の「双極ワーク ※3」にもときどき参加していて、「当事者同士で話し合って見えてくるものもあるんだな」と感じました。

松浦:おお、それはとても嬉しいです!

シラユキ:これからも趣味を作ったり、所属するコミュニティを増やしたりして、少しずついろんな力を借りたいと思っています。

※3 双極ワーク:「双極性障害✕働く」をテーマにしたトーク会。

双極性障害の方の職場選びは
「マイペースに働けるかどうか」

松浦:ご自分の経験を振り返って、双極の方の職場選びで気を付けるべきだと思うことは?

シラユキ:作業ペースや時間の使い方を、ある程度自分でコントロールできる仕事を選ぶといいと思います。先ほどお話しした通り、体調が悪い時はもちろんですが、「軽躁に傾きすぎているかも」と感じたら、お休みをとってクールダウンするのも有効だと思っているので。

松浦:私も「攻めの有休」と呼んで実践しています。シラユキさんのようにクリエイティブに関わる仕事についてはどう思いますか?

シラユキ:それは難しい質問ですね。確かに、私の知る範囲では、双極性障害当事者には創造性が高い人が多いように感じます。しかし、例えば「仕事への反響に反応しすぎてしまう」など、気分の上下と業務が結びついてしまうと、症状が悪化してしまいかねませんよね。それは職業として続けにくいんじゃないかな…と。私の仕事はコンテンツ制作ですが、作っているものの性質上、読者の方の声が届きにくいんです。だからこそ冷静でいられる部分もあるので。どういう形にしろ、淡々とできるならいいのかな、と思いますね。

松浦:シラユキさんのように自身の傾向を掴んでおけると、長く働く上で大きな助けになるんだなと改めて感じました。私も自分の体調が変化するきっかけや業務上の工夫を今一度整理してみようと思います。ありがとうございました!

イラスト:あかり*生き辛いOL

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この記事を書いた人
松浦 秀俊 株式会社リヴァ リヴァトレ事業部

双極はたらくラボ編集長/公認心理師/精神保健福祉士

1982年島根県生まれ。21歳の時に双極性障害を発症。20代で転職3回休職4回を経て、リヴァの社会復帰サービスを利用。後に同社へ2012年に入社(現職での休職0回)。 一児の父。

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