「普通」になりたかった。うつ病による休職・離職を経て「今の自分でいい」と思えるまで-30代女性(うつ病体験談)【メンタル不調からのリライフストーリー】

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「“普通”でなくては」「期待に応えなくては」と、他人軸で頑張りすぎてしまう。その結果、心身のバランスを崩してしまうのは、決して珍しいことではありません。

会社員として働きながら、SNSでエッセイ漫画を発信する白田シロさんも、そうした経験を持つ当事者の一人です。「普通」を求めるあまり激務を重ね、うつ病を発症し、休職と離職を経験しました。

先日、リヴァトレ主催のトークイベントで語られた、白田さんの「普通」を追い求めた過去から、「今の自分でいい」と思えるようになるまでの道のりを、本記事でお届けします。

白田 シロ 38歳 ※イベント当時


  • ・疾病名:うつ病
  • ・休職・離職後に選んだ道:再就職(障害者雇用)
  • ・仕事:会社員(事務職)

X(@hakutajyanaiyo)などでエッセイ漫画を発信し、著書には『シロさんは普通になりたい』も。

「期待に応えたい」「認められたい」
気づけば、心も身体も限界だった

菅野:まず、どのような経緯でご自身の不調と向き合うことになったのか、お伺いできますでしょうか。

白田:30歳のときに重度のうつ病と診断されました。当時、札幌で会社員をしていたのですが、そこがいわゆるブラック企業で。ミスをすると「普通にやれ!」と皆の前で怒鳴られ、サービス残業は当たり前という雰囲気で、終電帰りが続く毎日でした。

菅野:それは、過酷な環境でしたね。辞めようとは思わなかったのですか?

白田:辛いなと思っていたのですが、体調を崩して去っていく同僚や、すぐに見切りをつける新人が後を絶たない状況で。先輩から「白田さんは辞めないよね」と釘を刺され、「もちろんです」と答えているうちに、身動きが取れなくなってしまいました。

菅野:漫画もそのころから描かれていたんですよね。

白田:そうなんです。仕事の辛さを埋めるように、プライベートで漫画制作にのめり込んだのも、悪化の一因でした。SNSで「いいね」をもらうと、もっと褒められたい、と自分を追い込んでしまって。

菅野:終電で帰って漫画を描くとなると、睡眠時間も体力も削られていきますよね。

白田:そんな無理を続けていたら、ある日、すすきのの地下鉄で倒れてしまったんです。最初はPMS(月経前症候群)かと思い婦人科に通っていたのですが、先生から心療内科を勧められ、受診することになりました。

菅野:そして、重度のうつ病と診断を受けたのですね。会社から引き止められる状況で、休職はすぐにできましたか?

白田:できませんでした。医師からは「今すぐ休職を」と言われたのですが、会社からは「引継ぎを完璧にやって、会社が困らない状態になったら休んでいい」という条件を付けられたんです。心身ともに限界な状態から、1ヶ月かけて大量の引継ぎ資料を作成し、ようやく休職することができました。

心休まらぬ療養生活
やっと手にした「自分を守る」決断

菅野:休職中はしっかり休むことができましたか?

白田:いいえ...。休職中も職場から頻繁に電話がかかってきて、気が休まらず。日中はほとんど布団から出られず、なんとか近所のコンビニにおにぎりを買いに行き、その1個を3回に分けて食べるのがやっと、という生活でした。

菅野:食べる気力もない状態だったのですね。

白田:はい。記憶が曖昧なのですが、ただ寝ることしかできなくて、1ヶ月で10キロくらい痩せました。

菅野:その状況の中で、復職ではなく「退職」を決断されたんですよね?

白田:そうですね。休職して物理的に会社から離れたことで、「もうあの地獄には戻りたくない」と、辞める決断ができました。

菅野:休職はご自身の心を守るための、大きな一歩だったのですね。退職までのやり取りは、大変ではありませんでしたか?

白田:退職届を提出しに行ったときは、何を言われるのかと身構えていたのですが、上司は「ああ、もう頑張れないんだね。お疲れ。」と一言だけで、退職は拍子抜けするほど、あっさりと決まりました。怒りや悲しみよりも先に、「これで、やっと自由になれる」という安堵感がこみ上げてきたのを、今でも覚えています。

「生きてるだけでえらい」
転機になった、褒め日記との出会い

菅野:仕事を辞めてからは、どんな風に過ごされていたのですか?

白田:すぐに何かが変わるわけではなくて、ただ寝ていることしかできない日々が続きました。孤独な闘病生活の中、「これからどうなるんだろう…」という思いだけが、ぐるぐると頭の中を巡っていましたね。

菅野:抜け出すきっかけは何かあったのでしょうか?

白田:主治医の勧めで「訪問看護」を利用し始めました。週に一度、看護師さんたちが自宅で話を聞いてくれる時間が、大きな支えでしたね。ある日、訪問に来てくれた看護師さんが紹介してくれた「褒め日記」が、私にとっての大きな転機になったんです。

菅野:褒め日記とは、どんなことを書くんですか?

白田:ノートとペンを用意して、毎日3つ、自分を褒める。ただそれだけです。でも、始めた当時の私は手の震えもひどくて、ペンも持てない状況だったので、難しくて。ガタガタの字で「生きててえらい」「褒め日記を始めてえらい」と書いた記憶がありますね。

菅野:日記を書く、という行為そのものが、高いハードルだったのですね。

白田:そうですね。でも、特技と言えるくらい自分を責めていた私が、「お風呂に入れてえらい」「早起きできた」とできたことに目を向けられるようになっていきました。

褒め日記のエピソードを含む休職中のリアルな日々は、著書『シロさんは普通になりたい』に、より詳しく描かれています。

再就職と二度目の休職。
「頑張りすぎる癖」との対峙

菅野:褒め日記を通じて、自分との向き合い方が少しずつ変わっていったんですね。そこからどうやって再就職に踏み出せたのでしょうか?

白田:回復には時間がかかりましたが、現実的な問題として、生活費が底をつき始めたんです。傷病手当金の期間も終わりに近づき、主治医と相談して、無理のない範囲で就活を始めました。

菅野:働き方についてはどう考えていましたか?

白田:「疾病を隠して働くのは難しいだろう」と思っていたので、障害者手帳を取得しました。みどりのコーナーというハローワークの専門窓口を利用して、ご縁があり、障害者雇用で就職できました。

菅野:新しい職場では、いかがでしたか?

白田:前職で染みついてしまった、「期待に応えたい」と無理をする癖が、ここでも出てしまいました。3ヶ月の試用期間を終えた翌日には、再び体が動かなくなってしまって。

菅野:頑張りすぎてしまったのですね。

白田:泣きながら職場に電話をかけ、「すみません、体が動かなくて、休ませてください」と伝えたのを覚えています。幸い、障害者雇用ということで職場に理解があり、1ヶ月ほどの休職を経て、復職することができました。

菅野:障害者雇用という選択をしたことで、無理をせず仕事と向き合えたのですね。

白田:そうですね。ただこのままの働き方では難しいと思い、二度目の休職中には今の自分にできることを考える時間を作りました。「臨機応変な電話対応は難しい」「コツコツ自分のペースで進められるデータ入力ならできるのでは」というように、できることが少しずつ見えてきたんです。

菅野:改めてご自分と向き合われたのですね。

白田:はい。得意なことや苦手なことは個性として、上司と何度も相談し、周囲の協力体制のおかげで、業務量を調整しながら働き続けることができています。

「普通」を手放して見えた
完璧じゃなくていい生き方

菅野:うつ病や休職・離職といった経験と向き合われてきて、今はご自身のことをどのように捉えていますか?

白田:かつて私が無理をしていたのは、「普通になりたい」という気持ちからでした。でも、「普通」へのこだわりこそが、自分自身を苦しめる「呪い」だったんだなと、今は感じています。

菅野:普通であらねばと苦しめられていたのですね。

白田:そうですね。私はまだうつ病が治ったとは思っていません。でも、こうしてイベントに登壇して、笑えるくらいには元気になって、自分を認めたうえで、前を向けているなと思います。

菅野:自分を認められるようになったのはどうしてなのでしょうか。

白田:今でも続けている「褒め日記」のおかげかなと思います。見せるものではないので、「今日も仕事行けた私、天才」とか、「締切に間に合った、天才的技術」とか、自由に心を解放して書いていて。毎日積み重ねることで、少しずつ自己肯定感が育ってきたのだと思います。

菅野:続けられているんですね。イベントに登壇してくださった今日の褒め日記はすごいことになりそうですね(笑)

白田:ほんとですね。 「初めてのことに挑戦できた!」「人前で話せた!」ってたくさん書きます!

菅野:それでは最後に、現在メンタル不調と向き合われている方々に、白田さんから伝えたいことはありますか?

白田:いま皆さんは辛い渦中にいると思います。でも、生きることを諦めないでほしい。絶望することもあるかもしれないけれど、あなたにはいろんな可能性があるということを、どうか忘れないでください。そして、もし休職中・離職中の方がいらっしゃったら、まずは「休むこと」に専念してほしいです。焦らず、ゆっくりで大丈夫。そう伝えたいです。

菅野:白田さん、今日は貴重な経験をお話しいただきありがとうございました。

【Q&A】自分を苦しめる思考の癖とどう付き合う?

イベントでは、参加者の皆さんから寄せられた質問に、白田さんがお答えくださいました。ここでは、その一部をご紹介します。

Q1. 前職で染みついたという「頑張り過ぎてしまう癖」を、和らげるために工夫していることは?

私が大切にしているのは、一人で抱え込まないことです。今の職場では、しつこいくらいに上司と面談し、仕事の内容や調整の仕方について一緒に考えてもらっています。

周囲の理解があり、抱え込まずに頼ることで、働き続けることができていると思いますね。

Q2. うつ病で仕事を辞めて以来、「働いていない自分は価値がない」と感じてしまいます。そんな自分を責めてしまう時期を、どう乗り越えましたか?

ものすごく分かります。私なんて、自分を責めるのが特技だったので、「長所なんてない」と思っていました。

今振り返ると、自分を責めてしまうということは、心も身体もとても疲れている証拠だと思います。だから、「お布団と友達」という気持ちでとにかく休んでほしいです。

お医者さんにも「寝て、食べて、薬を飲むだけでいい」と何度も言われていました。気持ちを回復させるためにも、まずは休むことを優先してくださいね。

Q3. 周りと比べてしまい、絵を描くことが嫌いになってしまいました。承認欲求に振り回されずに楽しむための心構えはありますか?

「褒められたい」「注目されたい」「バズりたい」という気持ちに振り回されて、私も描くこと自体が苦しくなることがあります。なので、どうしようもない感情を、自分の中にいる「承認欲求モンスター」と名付けているんです(笑)。

最近は、このモンスターが暴れ出しそうになっても、少しうまく付き合えるようになってきました。例えば、漫画が思うように評価されなかったとき。以前はただ落ち込むだけでしたが、今は承認欲求モンスターに「ねえ、君はどう思ってる?」と心の中で話しかけ、その答えをノートに書き出して客観視するようにしています。

そもそも承認欲求は、あって当然の感情だと思います。大切なのは、その気持ちを無理に消そうとすることではなく、振り回されないように少し距離を置くこと。「注目されたい自分も、いていいんだよ」と、認めてあげるだけでも、心が楽になると思います。

Q4. 病気で退職し、長期的なキャリアが築けていないことに悩んでいます。周囲と比べてしまい、落ち込むこともありますが、白田さんはこの状況をどう思いますか?

お気持ち、すごくよく分かります。人と比べてしまうのは、仕方がないことだと思うんです。だから私は、「ああ、また比べているな」と気づきつつ、「でも、この比較は自分を苦しめるだけだな」と、もう一つの視点を持つように意識しています。 この「もう一つの視点」を、私は自分の漫画に登場する「比較神」というキャラクターにしています。落ち込んでいると天からふらっと現れて、「比較しても良いことないぞ」って、たしなめてくれる神様です。 「比較神」が来たら「はいはい、また来たね」って、少し笑えるくらいの距離感で付き合う。 比べる気持ちを無理に消そうとせず、その感情に飲み込まれさえしなければ大丈夫。私は、そんなふうに考えています。

おわりに

「普通に戻らなきゃ」と自分を追い込んでしまう気持ちや、他人と比較して焦ってしまう気持ちは、決して特別なものではありません。

白田シロさんのリライフストーリーが、同じようにメンタル不調で休職・離職されている方々にとって、自分を受け入れ、自分軸で生きるためのヒントにつながれば幸いです。


その他の「メンタル不調からのリライフストーリー」もぜひご覧ください。

白田さんの物語が教えてくれるように、「今の自分を認める」生き方は、ご自身の心と向き合い、試行錯誤を重ねる時間の中から、生まれてくるのかもしれません。

私たちリヴァトレは、まさにそうしたプロセスに寄り添い、安心して「次の一歩」を探すことができる場所です。

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この記事を書いた人
来迎成美 株式会社リヴァ リヴァトレ事業部

復職・再就職コーディネーター/精神保健福祉士
1998年岩手県生まれ。東北福祉大学を卒業後、2021年に新卒社員としてリヴァへ入社。現在はリワーク支援施設「リヴァトレ仙台花京院」で、プログラム提供に携わる。自分らしく感じる瞬間は「道に迷っている時」。

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