毎年10月10日の「世界メンタルヘルスデー」に合わせ、専門家や行政、企業が集い、メンタルヘルスの未来を議論する「世界メンタルヘルスデーJAPAN」が開催されています。
今年は「若者のメンタルヘルス ~環境変化とメンタルヘルスの関係~」をテーマに、2025年10月8日(水)第5回世界メンタルヘルスデーセミナーが開催され、弊社の社会復帰支援サービス「リヴァトレ」の卒業生である、しましまさん(仮名)が登壇しました。
しましまさんが語ったのは、新卒11ヶ月目で経験された休職・復職のリアルな体験。「学生時代の“正解”」が通用しなくなった社会の壁にぶつかり、リワークを経て「社会を生き抜く学び」を手に入れるまで、どのような経験をされたのか。
本記事では、その講演の模様をレポートします。
目次
新卒時代に直面した「学生」と「社会人」のギャップ
--講演は、しましまさんの学生時代のお話から始まりました。
私は学生時代から、ルールや期日をしっかり守る、いわゆる“真面目人間”でした。例えば中高生時代には、テストの二週間前に勉強の計画を立て、前日は早めに就寝する、といった具合です。
学生時代の勉強は、参考書などを活用し、決まった型に沿って学習を進めることが得意でした。だからこそ、答えのある問題に対し、いかに早く“正解”を出すか(ポジティブ・ケイパビリティ)が重視される当時の環境は、自分のペースで学習できることもあり、私にとても合っていたんだと思います。
--そんな学生時代を経て、しましまさんは新入社員として、第一希望の会社に入社。直後から「学生」と「社会人」の大きなギャップに直面したと言います。
仕事は学生時代とは対照的に、答えやマニュアルのない状況や課題に対応しなければいけないことが多く、曖昧な状態を耐えしのぐ力(ネガティブ・ケイパビリティ)が必要です。
しかし、当時の私はその求められる能力の違いに気づけず、学生時代の考えのまま「早く問題を解決しなければ」と自分に過度なプレッシャーをかけてしまいました。
そのような状況が続くと、会社で泣いてしまう、今まで興味のあったものに一切関心がなくなるなどの変化が。朝も起きられなくなり、希死念慮も常にある状態でした。
そして入社から11ヶ月目の2月末、社内の相談窓口を利用し、休職に至ります。
リワークで得た「新たな視点」と、復職後に見つけた「自分に合う環境」
--休職3ヶ月後、人事担当者の方の勧めもあり、5か月間リワーク(リヴァトレ高田馬場)に通うことを決めたしましまさん。そこで、ご自身の価値観を変える大きな気づきを得たといいます。
リワークで同じように回復を目指す人たちを出会い、世代や背景の異なる様々な人たちと関わる中で、「人は多面的で、そして同時に段階的であること」、「スモールステップで、少しずつ前に進んでいけばいい」ということに気がつきました。
多面的というのは、人にはそれぞれ、得意なこと、不得意なことがあるということ。 段階的というのは、どの面においても、少しずつ前に進むことしかできないということです。
リワークを経て、社会を生き抜くための「学び」という装備を手に入れることができました。
--リワークの利用を経て、同じ部署へ復職したしましまさん。以前よりは焦らずどっしりと構えられるようになった一方で、分からないことへの不安はまだ残っていたと言います。 そんな中、復職から半年ほどで、異動という転機が訪れたそうです。
異動先は、マニュアルや仕組みが明確に整っている部署でした。学生時代のようにいつでも自分のペースで業務について復習ができる最高の環境は自分にとても合っていて、趣味のジョギングや読書も楽しめるようになり、より一層精神が安定しました。
学生時代~復職までの流れを示したもの。「#」はリソース、下部の虹模様は心のありようを示す。
※しましまさんの登壇スライドより一部転載
心のありようは必ず変化する。「沈んだ時の準備」と「生き延びる工夫」を
--講演の最後に、しましまさんはこれまでの経験を振り返り、力強いメッセージを伝えてくれました。
自分一人でできることには限りがあります。でも、自分の考え方を変えたり、リフレッシュしたりすることで、「生き延びること」は可能です。
「適材適所」という言葉は本当だと思います。環境そのものを変えるのは難しくても、自分を見つめ直すことで、自分に合った仕事の進め方や、新しい働き方が見えてくるかもしれません。
また、気分の浮き沈みは誰にでもあるものです。だからこそ、調子がある程度安定しているときに、「沈んだ時の準備」をしておいてほしい。心のありようは、必ず変化します。
もし今、あなたが絶望しているのであれば、まずはゆっくり休んでください。そして、少しでも気分が上向く日まで、どうか生き延びてください。できることから、少しずつ始めましょう。
おわりに
しましまさんが直面した「学生時代の価値観」と「社会で求められる能力」のギャップは、多かれ少なかれ、社会に出た誰もが直面しうる課題かもしれません。
その過程で心身のバランスを崩してしまったとき、現在の社会では、休職や離職をネガティブな「停滞」や「失敗」と捉えてしまいがちです。
しかし、しましまさんの体験談は、その期間が「社会を生き抜く学び」を得て、これまでの自分を見つめ直し、考え方や働き方を変えるための重要な機会にもなり得ることを示してくれました。
私たちは、こうした当事者のリアルな声を発信していくことが、休職や離職を単なる「キャリアの停滞」ではなく、「自分らしく生きるための次の一歩(リライフ)」と捉え直すきっかけを社会に広げていくと信じています。
▶本セミナーの詳細はこちらのリリース記事をご覧ください。
しましまさんが通った、社会復帰支援サービス「リヴァトレ」とは
リヴァトレは、うつ病や適応障害などで休職・離職中の方のための、復職・再就職支援サービスです。 私たちが大切にしているのは、「戻ろう、ではなく、進もう。」というスローガンです。
これは、「元の元気だった自分、元の職場に“戻る”」ことだけをゴールにするのではありません。
しましまさんが「学生時代の“正解”」を手放し、新たな「社会を生き抜く学び」を得たように、休職期間を「これまでの生き方を見つめ直し、新たな自分として“進む”」ための時間として捉え直す支援を行っています。
リヴァトレには、しましまさんが経験したような「学生と社会人のギャップ」や、「再発への不安」といった様々な悩みに対応するため、ストレス対処やキャリアデザインなど、多彩なプログラムが用意されています。
もし、ご自身の「これから」について、じっくりと考える場所が必要だと感じたら、ぜひ一度リヴァトレのウェブサイトをご覧ください。
▶リヴァトレサービス紹介サイト
https://liva.co.jp/service/training第5回世界メンタルヘルスデー概要
















